宇宙政策シンクタンク「宙の会」は、宇宙政策について調査、議論し、提言することを目的にしています。多くの欧米のシンクタンクに見られるように、下請的調査ではなくて、中立、公平な立場での政策提言をめざします。そのスローガンは「静かな抑止力」。宇宙活動を世界標準並みに、科学技術力、将来産業力、環境・災害監視力、国際協力と外交力、という国の総合的ソフトパワーに活用すべきとの考えです。

宇宙軍事利用についての若干の感想

-「中国人民解放軍と宇宙戦争 米中軍事競争の時代がやってくる」−

得丸 公明

 小惑星イトカワでのミッションを終えた人工衛星はやぶさは 今このときも 地球に向かって 孤独な飛行をつづけている。このまま無事に旅をつづけて 地球に帰ってくることを 願ってやまない。 日本も軍事目的の宇宙開発をすべきだという意見もあるが、日本は純粋科学目的の宇宙開発に専念するのがよいと、私は常日頃から考えている。その理由は、アメリカやロシア、あるいは中国が行っている軍事宇宙開発は、国連常任理事国(戦勝国)にのみ許されている特権であるからだ。彼らのように、全地球規模で軍事的な展開・運用を企て、準備し、実際に行い、地上発射・潜水艦発射のできる核弾頭搭載大陸間弾道ミサイルの運用を考えるとき、はじめて人工衛星システムは必要不可欠なものとして意識されえる。すなわち、

・大陸間弾道弾ミサイルのための標的確認・着弾確認を行う偵察衛星、

・通信インフラなき地域(占領地や侵攻相手国)における軍隊の指揮管制を行うための通信衛星、

・無人航空機や巡航ミサイルのための測位情報を与える測位・航法・時刻管理衛星

である。

 糸川英夫博士が、「焼き鳥の肉を食べやすいように串にさすようなもの」と表現したシステム工学において、まずシステムが必要不可欠なものとして意識されてはじめて、具体的なシステム運用要求が生まれ、システム設計が始まる。この手順を欠いた人工衛星システムは、ほとんど無意味である。そして、作り出されるシステムが必要不可欠である以上、24時間、365日の運用に耐えなければならず、故障や事故や敵からの攻撃などの不測の事態が起きたときのバックアップ体制も必要とされるのである。そもそも、我々の意識も思考も、戦勝国モードではなく、敗戦国モードに初期設定されており、地球規模で軍隊を展開するための意欲もノウハウもまるでないので、軍事宇宙開発などできっこないのである。かりに何かを手がけたとしても、きちんと動くシステムにするためには、必要となる人材、産業基盤、予算は膨大であって、緊縮予算の時代にけっして手がけるべきものではない。

したがって、日本が追い求めるべきは、純粋科学目的の宇宙開発がよいと考える。

 この宇宙開発についての考えを、他の人々に共有していただくための資料として、以下にアメリカン・エンタープライズ公共政策研究所が、2007年10月17日付で発表した研究論文、ラリー・M・ウォーツェル著「中国人民解放軍と宇宙戦争 米中軍事競争の時代がやってくる」の参考日本語訳を添付する。

アメリカと中国が、いったいどれくらい軍事宇宙に対して、真剣に取り組んでいるかということのごく一端を感じ取っていただければ幸いである。これを読めば、日本も軍事宇宙の世界に乗り出すべきだと思っていた人は、自分が途方もなく人も金も知恵も軍事力も必要とする世界を夢想していたと気づくであろう。軍事宇宙参入の夢から目が醒め、日本の進むべきは科学目的の宇宙開発だと思う人が増えることを祈る。

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アメリカン・エンタープライズ公共政策研究所

                         2007年10月17日付研究論文

    ラリー・M・ウォーツェル著

「中国人民解放軍と宇宙戦争 米中軍事競争の時代がやってくる」

 

 将来のいかなる戦闘においても、中国人民解放軍の戦闘計画においては、宇宙戦争が中心的な位置を占めるだろう。人民解放軍が統合的宇宙戦力を保有すべきであるとする推進派の中心人物のひとり、蔡風珍(Cai Fnegzhen)将軍は、「宇宙の一部を支配することは、領海や領空などの他の領土支配と同様に、領土支配の延長にある」と信じている。1 もっと深刻なことには、宇宙においてはアメリカが優位にたっていることから、中国の軍事理論家たちは、宇宙戦争の敵をアメリカとしている。アメリカの陸軍宇宙ミサイル防衛軍司令官ケヴィン・キャンベル将軍は、「3年以内に、中国はわれわれとほぼ互角になる」可能性があると考えている。2 つまり、中国は戦場でのさまざまな通信能力も持つことになるという意味だ。3

(文中の番号1〜96は、原典URL内の注記)

 

 中国の宇宙戦争基本政策の創世記

 

 中国軍が宇宙における戦争の基本計画(ドクトリン)を立案整備しているからといって驚いてはいけない。軍事理論は、技術の変化に応じて進化するものなのである。兵器や技術の進歩がどのように戦闘に影響を与え、これらの変化をどのようにして取り込むのかということを真剣に考えることは、戦略家や戦闘計画担当者の当然の仕事である。人民解放軍の動きは真剣であり、注目に値する。しかし、アメリカの安全保障政策立案者は、中国軍でおきていることを心配しすぎる必要はない。

 人民解放軍の宇宙戦争基本計画の策定は、彼らの独創ではない。むしろ、人民解放軍は、宇宙戦争と宇宙攻撃対応についてこれまでに米軍が公表してきたことを、丁寧に読んで吸収し、対抗しようとするものである。4 人民解放軍は、ソヴィエト時代と今日のロシアの宇宙運用の考え方も研究し、自分たちの基本政策策定の参考にしている。5

 中国の隣国も、米国やソ連が何十年か前に考えた宇宙戦闘能力を開発中だ。インド空軍の前・空軍大将S. P. ティヤギは、先ごろ、統合・有人の「宇宙軍」を創設して、インド軍のミサイル、衛星、通信能力を有効に使用することを提唱した。6

 しかしながら中国の文献では、中国の敵として主としてアメリカが想定されているので、米国の安全保障計画立案者は、中国の努力を注意深く監視すべきである。また、人民解放軍はこの分野で驚くほど急速に進歩した。

 中国の宇宙戦争・航空基本政策の分野でもっとも年長で、もっとも著作物が多い蔡風珍は、彼の使用する用語と概念のほとんどを米国の軍事基本政策(ドクトリン)から借りている。実際のところ、蔡は自分が独自の概念を作り上げたのは、米国陸軍中将ダニエル・O・グラハムとその著書「高いところにある国境(High Frontier)」のおかげであるとしている。7 蔡は、ある国の国境をそのまま宇宙空間にまで伸延する概念は、グラハムとその「高いところにある国境」に由来するといっている。8 蔡は、宇宙を支配することは、領海支配や領空支配のように、領土支配の別の形での延長だとする意見を述べる。これが、蔡が宇宙航空運用と人民解放空軍について行った初期の研究成果である。9

 別の中国の安全保障文献は、アメリカのミサイル防衛の意図は、国家領空支配の延長であるという解釈を反映している。北京システム工学学院の黄志成(Huang Zhicheng)は、宇宙兵器についての記事の中で、「米国は、宇宙の中に『戦略的な外部国境』を構築しようとしている」といっている。10 黄は、ケネディー大統領の「宇宙を支配する者は誰でも、地球を支配できる」(誰能控制宇宙、誰就能控制地球)を引用して、アメリカの地球支配の意図を深く憂慮する。11 これは人民解放軍がよく引用する言葉なので、たぶん軍学校で教えているのだろう。「中国軍事科学」の記事の中で、人民解放軍の軍事科学大学の劉継先(Liu Jixian)陸将補は、ケネディーのことばをこのように言い換える。「大宇宙を支配する者は誰でも世界を支配し、宇宙空間を支配する者は誰でも戦争の主導権を握る。」12

 究極のところ中国人研究者は、宇宙基本政策を制定したアメリカの本意が見えていない。蔡の論文のどこを見ても、あるいは「高いところにある国境」についての他の検討をみても、著者たちはグラハムが意図したことを理解できていない。それは、かつて米国とソ連が一時期陥っていた戦略核の相互確証破壊(MAD)の行き詰まりを打開するためであった。13 グラハムは、米国と同盟国のために、「相互確証破壊という危険なドクトリンを、保障された生存」で置き換えようと提案したのだ。14しかし、蔡は、そこには目をつけないで、グラハムの高性能宇宙飛行機と指向性エネルギー兵器に目をつけたのだった。

 人民解放軍の将校たちは、バルカンで、第一次湾岸戦争で、アフガニスタンで、イラクで、宇宙資産のおかげで、アメリカの統合運用と指揮管制が実にうまくいったことを観察しており、それに反応した。15 彼らは同時に宇宙運用に関する米軍文献の研究も行った。人民解放軍は、米空軍と同様に、将来の紛争は、他の軍事運用形態と宇宙空間での戦争が統合されると予想する。人民解放軍がもっている米軍ドクトリンは(訳注:われわれの手元にあるので)スパイするに及ばない。16 人民解放軍の用語も、将校たちが読んだ米国ドクトリンに多くは根ざしている。もっとも印象深く、注視する必要があるのは、人民解放軍が宇宙で戦争する進んだ能力をいかに迅速に開発したかということである。

 

宇宙戦争とその他の軍事運用の形態

 

 宇宙での運用と戦争は、人民解放軍が「情報化された」、あるいは情報時代の戦争とよぶものの一部である。17 一般に、人民解放軍の戦略家は、宇宙は戦争が行われる自然領域のひとつであり、宇宙における戦争こそが、他の軍事運用の形態の中心的な部分となるということを納得している。18 そのうえ、人民解放軍の著者たちは、「将来の敵軍は、軍事運用において、情報システムに過度に依存するであろう」という理解をもっている。そのために、彼らは、中国は技術的な障害をのりこえて、宇宙における情報システム妨害手段を開発する必要があると信じている。19 人民解放軍の最重要な軍事理論誌である「中国軍事科学」に寄稿している二人の著者は、「情報時代の戦争は、宇宙において、もっとも激しい戦いとなる。将来の戦争は、情報、火力、機動性を揃いもたなければならない。」20という。 彼らは、将来の潜在的な軍事的脅威は、どこよりも宇宙からやってくると信じている。

 この二人の著者同様に、他の軍事理論家たちも、「(ハイテク戦争においては)大気圏と宇宙が最重要な戦場となる。そして、大気圏と宇宙を隔てる境界線は、ぼやけてくるだろう」と信じている。21 将来の戦闘においては、宇宙におかれたプラットフォーム間の戦争が行われ、戦略地点や空中の目標が攻撃されるだろうと信じているものもいる。22 宇宙で戦争を行い、宇宙にある標的を攻撃したり、地上や空中を攻撃するためには、人民解放軍の理論家たちや他の中国の研究所員たちは、レーザー兵器、粒子ビーム兵器などの形態や、その他の形態の指向性エネルギーや電磁システムの研究が必要であると考えている。23 そして、これらの研究の全部が軍事理論の領域に収まっているわけではない。人民解放軍組織のなかには、宇宙から地上への動力兵器システムの基礎研究と応用研究を行っているところもある。24

 南京陸軍指揮大学の張志偉(Zhang Zhiwei)大佐と、風建新(Feng Zhuanjiang)中佐は、「宇宙における優越性」が、他の軍事運用形態の中核に位置づけられなければならないと論じる。25 つまり、彼らは、宇宙の優越性を、他の軍事運用形態の必然的および論理的な延長線上にあるとみている。基本線として、人民解放軍は、宇宙の戦争を他の軍事運用形態の中核に位置づけており、攻撃と防御の運用が混然としている。26

 

中国における法的な検討

 

 人民解放軍の戦略家と計画担当が宇宙戦争を考えるにあたって、国際法に照らして中国の行動を正当化することと、国内法体系の中に位置づけることは、ますます重要となってきている。人民解放軍の総合政策局の数人の担当者は、中国が衛星やその他の構築物である「宇宙空間の物体」に対して攻撃をしかけることを正当化できる論拠を構築しようとしている一方、他の学者や軍事理論家たちは、国家主権という言葉の微妙な含意や制限について取り組んでいる。本節では、それらの議論のうちのいくつかを紹介する。共産党の古参幹部は、世界的にインパクトのある軍事大国・経済大国となるためには、宇宙において指導的立場にたつことが鍵をにぎると考えている。中国の2006年の宇宙活動白書は、中国の宇宙戦力の優先順位を明らかにしている。人民解放軍の基本政策においては、人民解放軍の幹部は、いかなる紛争においても、宇宙を牛耳ることが「将来の戦闘における『高地』を制することになる」という認識を明らかにしている。27

 

戦争の準備と「法律戦争」

 戦争研究者は、北京の宇宙についての軍事基本政策をもとに考えをめぐらしている一方で、その他の中国の戦略家や法学者は、主権についての伝統的な考え方と戦争法が、宇宙においてどのように適用されるかについての内部検討に従事している。中国の軍拡のことを追跡している人間にとっては、これらの内部検討をよく吟味することが最重要である。なぜならば、宇宙において軍事力を行使する前に、中国はその意図を電報で打電するか、政治的あるいは法的行動を通じて計画している行動を正当化するだろうからだ。

 軍事法体系についての権威ある著作「軍事と軍事法体系構築のための新たな革命」は、人民解放軍は、いかなる紛争における軍事行動においても、事前に法的正当性を提示することが重要性だと論じている。28 これらの研究が意味するのは、すでに今の時点で、中国国内でこのような議論が行われているということは、総合政策局は、国内法の枠組みの中で、潜在的軍事行動を正当化する方法を考えているということだ。国内法の分野でのそのような活動や行動は、将来における国際法や国際世論に対する影響を考えて行われている。1992年に海洋法が人民会議で採択されたときも、同じようなことが行われ、結果的に東シナ海と南シナ海の300万平方マイルの海域を地図上で領海として組み入れた。29 2005年の反国家分裂法も、この場合には台湾に対してであるが、政府が将来の潜在的軍事行動を正当化するために国内法を利用する別の事例である。

 人民解放軍の幹部によれば、今日の国際システムにおいて軍事行動を国際的に支持してもらうためには、軍事行動に対する明快な法的説明を行うことが必要である。彼らは、軍事紛争を正当化させるプロセスのことを、「法律戦争」とよぶ。30 人民解放軍の権威ある基本政策文書の中には、軍事行動のための法的準備は、軍事力の使用を補足する「心理作戦」の一部であると書いてある。31 法律戦争のプロセスについて説明している、この人民解放軍の主要文書は、中央軍事委員会、人民解放軍のすべての管理部門、および軍事科学大学から参加した高級法律顧問が参加した検討会議において承認された。32

 実際のところ、中華人民共和国の設立以来、共産党指導者は、軍事行動に出る前に開戦理由を確立することに注意をはらってきた。従来それらは、法的あるいは政治的な正当化であった。朝鮮戦争に軍隊を介入させる前、中国は、毛沢東の宣言といっしょに、その行動をインド政府経由の電報で表明した。33 1962年の中国・インド戦争の場合には、中国の外交官と軍事的指導者は、紛争の3年も前から、法的な立場を表明していた。34 1969年のソ連邦との対立のときも、1979年のベトナムへの「自衛的攻撃」のときも、同じようにした。このように、法律戦争の概念は、中国の外交的実践の中に根ざしており、それは近代戦争を観察する中で強化されてきたのだった。

 人民解放軍の西安政治大学の張善新(Zhang Shanxin)と藩健剛(Pan Jiangang)は、いかなる紛争においてもそれに先立って、国家は、宣伝や心理的・法的キャンペーンを行って、軍事行動を支持してもらえるように「肯定的な世論を奮い起こ」さなければならないと信じている。35 彼らは、また、国際法の枠組みの中で軍事行動を正当化できるように国内法を整備することを提言している。著者たちは、「包括的な国力」を発展させるために、それが必要であると考えている。彼らは、米国も2003年のイラク攻撃の前にそのような行動の重要性を示したといっている。

 参謀本部政治部の路虎成(Lu Hucheng)と張玉成(Zhang Yucheng)は、「法律戦争」を戦闘行動の準備段階で実施される「軍事行動の特別な形態」であると位置づける。36 LuとZhangは、これらの法的活動を「戦場の政治的な準備」であると定義する。彼らは、法的な議論、プロパガンダ、事前に交渉の終わっている国際協定は、必要な軍事行動を正当化するためのものであると考えている。

 なぜこの「法律戦争」という概念が重要であるのか。最近のことになるが、中国の研究者は、国家主権、宇宙における主権、現代の戦争における「宇宙支配」の必要性について、彼らの考えを示した。これらの行動は、この「法律戦争」という概念に即したものだ。そして、宇宙空間で何か紛争がおきた場合に、それらが人民解放軍による軍事行動を正当化する理由づけを提供するのだ。人民解放軍の法律戦争の議論に注目しておくことは重要である。また、アメリカの軍事理論家は、いつでも可能なときに中国の研究者や外交官とやりとりして、彼らが紛争の正当化について勝手な定義を行う能力や、国際法を彼らの都合のいいように進化させることを、制限することが重要である。

 人民解放軍は、アメリカ国内において、核実験を再開することや、防衛的な兵器であっても宇宙空間に設置することについて、深い政治的な分裂があるということを知っている。これらの問題についての議論は、アメリカの議会、科学界、学究世界、政策集団の中で、熱く繰り広げられている。法律戦争の考え方は、これらの論争にも適用されることはありえるだろう。中国人の研究者や将校たちが、アメリカが宇宙に設置する防衛イニシアチブについての法的な反対意見を利用する可能性はある。

 一例であるが、私は2002年に、英国の平和主義者に招待されて、軍備管理と宇宙について議論する国際会議に参加した。この英国のグループの中国側のパートナーは、中国平和軍縮協会だった。しかしながら、私が中国代表団と会ったところ、そのうちの4人は、私がかつて他の軍備管理の会議で顔を合わせていた、人民解放軍将校か、国家安全省の役人であった。英国において、彼らは身元を隠して、軍縮研究者という触れ込みで行動していた。

 

反アクセス戦略と「主権の支配」

 中国が19世紀に外国から侵略されて租界を設置したという歴史が、中国の主権問題についての過敏症と強い国家安全保障意識の背景にある。37 すでに見たように、人民解放軍の軍事理論家と法律家たちは、宇宙を国家による領土支配の自然な延長とみている。人民解放軍の将校たちは、「今日では、宇宙を支配することが、上空を支配することを保証し、、、、現代の『情報化』戦争を遂行するためには、これが絶対的に必要である」38と信じている。中国の新しい晋型潜水艦の画像が2007年7月5日のグーグル・アースに登場したとき39、国際報道による暴露によって人民解放軍の一部にショックが伝わった。しかし、軍としては、この事件が起きる以前から、宇宙からの撮影の可能性について検討が行われていた。40 「第二砲兵」雑誌上で、評論家の毛元(Mao Yuan)は、「中国の伝統的安全保障上の天空は、進化しつつあり、辺境地が前より安全でなくなった。」といっている。41 彼は、これらの脅威に対しては、受動的な防衛対策を提案している。「人民解放軍は、宇宙からの撮影に対しては、もっとうまくカモフラージュして、隠すようにするべきだ。また、秘密を保持するためには、コンピューター・ネットワークのセキュリティーを改善する必要がある。」他の中国人研究者は、デコイや、撮影を警戒するための宇宙軌道上の警報装置や、中国の活動を隠すためのマルチ・スペクトラルな光学特性をもつステルス・カモフラージュを提案している。42 このように、中国においては、宇宙からの画像取得や情報収集に対抗するためのさまざまな防衛手段が検討されている。43

 しかしながら、人民解放軍の将校たちは、能動的で攻撃的な手段によって安全保障能力を向上させようとしてきたのであり、毛元が提案したような防衛的な情報対抗プログラムは採用しなかった。中国では、中国の領土の中あるいは上空で他の国が軍事行動をとる自由を懸念する議論がある。44 その上、この議論に含まれている要素は、一般的な国際法・慣習の中で受け入れられているものから、主権の解釈を拡大することになる。それに対処するために、人民解放軍大学の何人かの研究者は、現代の技術によって、将来の「情報化」戦争の主戦場は宇宙に移動すると議論している。この挑戦に対応するために、彼らは、中国軍は大至急軍事宇宙能力を構築しなければならないと信じている。45

 中国の軍事理論家は、宇宙における戦争において主権がどのように影響を与えるのかについて議論をしている。法学者である任暁峰(Ren Xiaofeng)は、経済専管水域(EEZ)とそこに隣接する航空・宇宙域における偵察活動と軍事行動に対して北京政府が神経を尖らせていると説明する。「自由航行権と領空通過の自由は、軍事行動や偵察活動までは含んでいない。これらの活動は、軍事的抑止力顕示と、戦闘準備のための情報収集活動として、受け取られかねない。」46 任によれば、これらの行動をEEZ内でとった場合は、沿岸国への軍事力行使の準備という意味をもつ。任が「隣接する航空・宇宙域」というとき、そこには宇宙空間と宇宙偵察が含まれている。しかし、すべての人民解放軍の理論家が、おなじように広義の意味で宇宙に主権を主張しているわけではない。人民解放軍の内部においてすら、国家が宇宙のどこまで主権を主張できるかということについては、あいまいというか、意見の不一致がある。武漢軍事工科大学の二人の研究者は、「宇宙空間での戦争の利点は、いざ宇宙空間に出てくれば、国家は国際国境によってかけられている制約から自由になるということである。したがって、領空において課せられていた運用上の制約がなくなるのである。」47

 この点に関する米国の公式な立場は、国家宇宙政策(National Space Policy)の中で説明されている。48 その政策には、「米国は如何なる国の宇宙あるいは天体、あるいはその一部に対する如何なる主権の主張も拒絶する。また、米国は宇宙で運用し宇宙からのデータを取得する基本的権利への如何なる制限をも拒絶する。」とある。

 この部分は、いつもはっきりと表明されているというわけではない。1960年に米国の偵察飛行機U-2がソ連によって撃墜された後で発表された法的覚書が、国家主権が宇宙に適用された場合の考え方について論じている。49 この覚書によれば、「領空主権は、地上に横たわる国家の領土を垂直に投影した空域を意味する」50と認めている。実際のところ、1958年に、米国国務省の法律顧問は、「アメリカの主権は上空1万マイルまで及ぶ。一方でソ連の領空は”無限”に及ぶ」といっている。51

 正式には、ソ連もアメリカも、領空の及ぶ範囲について、言い換えるならば、領空と宇宙の境界を、定義することを拒否した。52 何人かが、大気圏の終わり、つまりカルマン境界とよばれている高度100kmあるいは62マイルが、主権の上限であるべきだという意見を述べたが、上限はないのだ。53

 中国において主流となっている意見は、宇宙は不可分一体のものではあるが、宇宙安全保障は国家安全保障にとって必要なことであるので、自国の領土の上空に防衛的メカニズムを構築することは必要だというものだ。54 実際、蔡風珍と共著者は、この議論の詳細を論ずる。

 

 領土の上にある空と宇宙は、分離不能で、統合された領域である。そこは、現代情報化戦争における戦略的高地である。領海および領土の上空は保護されているが、国際法上、領空がどの高さまで及ぶかについては明確な基準は存在していない。55

 

蔡は、これは結論が出ていない議論であるということを認めたうえで、主権がカルマン境界にまでしか及ばないのか、あるいは国家は領空主権を数千マイル上空まで及ぼせるのかについて、さまざまな法解釈を展開する。56 しかしながら、彼の基本的立場は、国家は自国の防衛と宇宙の支配のためならば、その武器システムがおよぶ範囲(正確にいうと高さ)まで主権を主張することができるというものだ。57 これらの中国の見解は、アメリカが政策と実践の中で示した法的立場と好対照である。

偵察活動についても、中国とアメリカでは、戦略家や法学者の見解が大きく異なっている。1958年以来、「米国は、宇宙活動において解釈される”平和的”というのは、非軍事的というよりも、非攻撃的を意味するという立場をとってきた。」58

一定の期間、ソ連とアメリカは、宇宙からの偵察能力は、冷戦期における戦略的安定性を提供するものだという相互了解をしていた。両国が合意した1972年の弾道ミサイル禁止(ABM)条約は、「各締約国は,一般的に認められた国際法の諸原則に合致する方法で行われる,他の締約国の検証の国内的な技術的手段を妨害しないことを約束する」と定めている。59

 

中国の教科書においては、宇宙の主権は、EEZ(経済専管水域)への国家主権の伸延になぞらえて扱われており、領空主権と同様に国家の生得の権利であると考えられている。しかしながら、「主権支配」を主張する人々も、彼らの主権支配が及ぶと考えている空間を通過する宇宙物体を、継続的に統制することはできないことを認めている。彼らが求めているのは、もっと限られた、一時的な宇宙支配能力である。60統合的な航空宇宙運用について、蔡風珍と田安平(Tian Anping)が書いた論文は、人民解放軍の宇宙運用の軍事理論について、おそらくもっとも完成された説明を与えてくれる。

 

宇宙支配は、ある戦闘状態にある交戦国が、一定の期間、一定の宇宙領域で、自由に運用をすることができ、一方で、敵国の活動や宇宙利用を妨害したり予防したりする能力である。61

 

 宇宙と中国の国家安全保障の利益に関して権威あることを書いたのは、人民解放軍空軍将校でもっとも年長な人民解放軍軍事科学大学学長 鄭申侠(Zheng Shenxia)将軍である。政治人民委員である劉元(Liu Yuan)中将との共著で、鄭はアメリカが中国を封じ込める政策(美国対華遏制戦略)をとっていることを非難する。62 この挑戦に対抗して、中国独自の国益を守るために鄭と劉が提案したのは、北京政府は、電磁波の制御技術(訳注:後ろの記述によれば、情報戦争・サイバー戦争のことをさす)と、領土、領海、領空と宇宙を統合した領域に対する伝統的な主権支配ができなければならないという。63

 人民解放軍の高級将校が提案しているという政策的優位性もあって、中国はおそらくその技術的限界の上限のところで、宇宙を支配し、作用する能力を開発するのであろう。蔡と田が言葉すくなに提案したように、そのような支配は、あらかじめ設定する領域と期間でのみ実現するであろう。北京政府は、危機や戦争のときにだけ、宇宙での主権支配を行使するものと思われる。

 

戦争法が適用される

 蔡と田は、戦争法を宇宙で適用することに関する「法的な環境」についても吟味する。彼らは、「公海」上での戦争遂行に関するさまざまな概念が、公海上空でも適用されるように、宇宙でも適用されると信じている。64 交戦国だけが、自国の領海を出た海域で戦争行為ができることになっているが、交戦国は、交戦相手国の宇宙物体を攻撃できる権利をもつべきであると、彼らはいう。65

 2004年の宇宙と人民解放軍空軍に関する文章で、蔡と田は、宇宙においてある国を防衛することや、同盟国の宇宙物体を防護することに関しては、なんの制約もないと証言する。66 2006年の文章において、公海において、交戦国による戦争行為は、非交戦国の一般的商業活動を妨害してはならないが、交戦国は、戦争の準備をしている商船を攻撃できるという。67 したがって、彼らは、同様の規則が宇宙においても適用されるべきであると結論づける。他の二人の中国人研究者は、戦争遂行にとってきわめて重要な役割を果たすので、戦争になったら交戦相手国の宇宙構築物や人工衛星は、公空のどこに位置していても、当然攻撃の対象になるだろうと議論する。68 ある研究者は、紛争になったら、交戦国の軍事データを流しているのであれば、第三者の衛星も攻撃の対象となると議論している。69

 中国人の戦争法解釈は、おおむね、アメリカや西洋の法的意見と合致している。70 法学者の河七世(He Qishi)が1993年の記事の中で指摘したように、「外国の宇宙物体が、国家の空を通過する場合やその他の問題については、法律で定義する必要がある。」71 彼は、国家の空とは何かについては議論をしていない。軍事データを取得しているからという理由で、中国が商業衛星を攻撃すると決めた場合、これは国際的な衛星ビジネスと、中国独自の宇宙利用に、深刻な影響をもたらすであろう。

 

偵察あるいは「戦闘準備」?

 前述したように、中国とアメリカの間には、偵察と監視の実施の性格づけ、およびその背後にある意図について、大きな考え方の相違がある。72公海および公空における航空・海上偵察活動について中国軍幹部が反対していたのは、目新しいことではない。私が武官として北京に駐在していた時期(1988-1990, 1995-1997)、私はたくさんの打ち合わせに出たが、中国海軍幹部や国防官僚は、アメリカが中国の経済専管水域内で平時偵察活動を行っていることについて、アメリカの司令官や国防官僚に苦情を呈していた。現実には、2001年におきたアメリカのEP-3偵察機と、それを追跡していた中国のF-8戦闘機の衝突事故(この事故によって戦闘機は墜落し、飛行士が死亡した)は、経済専管水域内での軍事偵察について、北京政府から新たに異議が唱えられたのだった。偵察と戦場準備を同一視してとらえている最近の法律論文は、このEP-3事件を念頭においている。中国の解説者は、この考えを、宇宙偵察にまで及ぼそうとしている。

 ある国際法雑誌の中で、ある中国人がこの問題に関してアメリカと中国の意見の相違を認めている。つまり、アメリカにとって宇宙の「平和利用」というのは「非攻撃的」を意味するのに対して、中国の解釈では、平和利用とは非軍事でなければならないというものである。73 中国で一般大衆向けの読み物として情報化時代の戦争についての随筆をまとめたある著者は、「戦場における状況認識は、情報化時代の戦闘の中心である。したがって、我々は敵の状況認識の基盤となっているシステムを破壊あるいは妨害できなければならない。」という。74 他の人民解放軍の著者は、「情報戦(Qingbao Zhan)」は、武力紛争が始まる前に戦われなければならないという。これには、さまざまな手段による偵察および情報収集が含まれる。75

 米国とその他の国の間で、いくつかの見解、とくに宇宙からの監視の平和性についての見解が違うのは、今に始まったことではない。ソ連の宇宙理論や宇宙法の学生は一般に、「平和的」とは「非軍事的」であると理解する。また、ソ連と中国の学者は、監視衛星の使用は宇宙の攻撃的利用の一部をなすと考えているのに対して、アメリカは、そのような監視は宇宙の「非攻撃的利用」であるという立場を崩していない。76 このように、将来、アメリカと中国がこれらの戦略的な問題について対話をした場合に、偵察活動の性格の問題については、相当な時間がかかるものと考えられる。同様に、中国はいまやたくさんの軍事偵察衛星を常時観察可能な軌道に投入している。たとえ北京政府がこれらの衛星を軍事用として認めないにしても、この点に関して中国の立場は変わるかもしれない。77 二国間で話し合いを行う基盤はたくさんあり、研究レベル、政府系レベル、民間扱いの政府間対話などがありえる。

 

人民解放軍が宇宙戦のツールとして考えているもの

 

 人民解放軍は、さまざまな宇宙兵器についての、理論研究、基礎研究、実用研究を行っている。78 それらは: 79

 

・ 衛星妨害技術

・ 宇宙物体同士の衝突

・ 運動エネルギー兵器

・ 宇宙から地上への攻撃兵器

・ 大気圏上層部あるいは宇宙に往き来できる宇宙プレーン

・ 高出力レーザー兵器

・ 高出力電磁兵器システム

・ 粒子ビーム兵器

・ 電磁パルス

 

 人民解放軍の文献によれば、アメリカは、運動エネルギー兵器、粒子ビーム兵器、指向性エネルギー兵器の分野でもっとも進んでいる。しかしながら、人民解放軍は、さまざまな形での妨害と、宇宙物体同士の衝突という考えにおいては、よくやっている。

 アメリカの軍事理論家と計画官にとっての悩みの種は、この分野こそがまさに宇宙科学とロケット科学であるということだ。この分野での中国の軍事理論、基礎研究、応用研究は、ガラス張りになっているが、正式なプログラムとして立ち現れる兵器システムについてはそうではない。理論家や政策立案者がわからないのは、現在の科学がこれらの宇宙戦争のシステムまで対象としているのかということだ。したがって、アメリカは、科学・数学・工学の素養をもった人間を中国の情報の調査や解析にあたらせるようにしなければならない。中国は宇宙戦争に真剣に取り組んでいる。そのうえ、自国の気象衛星の破壊と、アメリカの衛星の目潰しをしたことは、それが成果を生み出しつつあるということを意味している。

 

 一般に人民解放軍の理論家は、攻撃であろうと、防御であろうと、補給であろうと、内部の通信回線と支援が軍事運用の成功のためにはもっとも効果的であると考えている。80 彼らは内部回線のほうが外部回線に優先すると考えているようだ。81 こうして、彼らは自分たちのアジアにおける位置づけが、アメリカのそれよりも優勢であると思っている。なぜならば、アメリカは延長した外部回線を使って戦争し、通信し、補給しなければならないのに対して、中国は航空機、ミサイル、潜水艦隊の行動範囲を内部回線でカバーしているからだ。これはつまり、もし紛争が起きれば、彼らはアメリカの通信、指揮管制、状況認識、軍事調整努力を混乱させるために妨害装置や対衛星兵器を使用するであろうということだ。

人民解放軍ができる最大の破壊行為は、アメリカの追跡データ中継衛星(TDRS)を無力化することだ。これはネットワーク運用のために、世界大でリアルタイムのセンサーと通信能力を提供する。人民解放軍は、米国は衛星システムに過度に依存している、少なくとも人民解放軍が自国の衛星に依存している以上に依存度が高いと信じている。しかしこれは変わりつつある。人民解放軍は、自軍の指揮、管制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察(C4ISR)システムを近代化しており、現在のアメリカと同じくらい宇宙システムと情報システムに依存するようになりつつある。

したがって、中国の軍事目的での宇宙支配と宇宙抑止の政策は、もはや以前のように非対称(訳注: 中国は宇宙資産を保有し運用していなかった時代は、自らのシステム防衛を考えなくてよかった)戦争ではない。むしろ競争は、どちらの軍がもっとも効果的に相手の軍事運用を破壊できるかということにかかっている。宇宙戦争は伝統的な紛争に統合されてその一部となっているのである。

 

偵察衛星への攻撃の意味するもの

 

 答えを要する質問として、人民解放軍は、彼らが開発している能力を行使することの意味をきちんと考えているのであろうかということがある。すなわち、研究者が宇宙戦争の形態について考えるとき、あるいは宇宙兵器として適用される能力を開発するときに、その能力を使うことの意味をきちんと考えている人民解放軍の政策や計画を立案する将校たちがいるのかどうかということだ。もしそういう将校たちが存在していないとなると、突発的な事件があっという間に拡大して、収拾がつかなくなって、武力戦闘を招いたり、より深刻な危機を導くことになるだろう。

 たとえば、人民解放軍の第二砲兵司令学校の4人の将校は、アメリカの宇宙にある大陸間弾道弾早期警戒システムをいかにして妨害し破壊するかについて解析して出版した。82彼らは記事の中で、「宇宙に置かれたミサイル早期警戒システムは、将来の宇宙戦争において、きわめて重要な役割を果たすことになるだろう」と書いている。83彼らは、衛星の静止軌道位置や、観測角度、観測している赤外線帯域、それらの衛星の欠点などについて、米国の防衛支援プログラム(DSP)早期警戒衛星の能力と緒元を明かしている。著者たちは、他の衛星を使って、地上からのレーザーで、あるいは地上から打ち上げられた兵器によって、いかにしてDSP衛星を破壊するかについてを議論している。84 彼らは、さらに、いかにして衛星および衛星と地上の通信回線を妨害するかについて、また、警戒衛星が攻撃を探知しにくいように、どのようにしてミサイルが放射する赤外線をカモフラージュするかについて、議論している。85

 結論として、著者たちは、戦略的大陸間弾道弾能力を維持することは、中国が南西海岸域(たとえば、中国の台湾に対する潜在的軍事介入)で、独自の軍事行動をとることに対して、アメリカが大規模な軍事攻撃や軍事介入をしてくることを阻止するための強力な抑止力になるという結論に達した。86 彼らは、「宇宙のミサイル早期警戒システムを破壊したり、妨害することは、その対ミサイルシステムを麻痺させるだけではなく、中国が宇宙での戦争に勝利することを助けることになる」と見ている。87

 このような考え方の問題は、アメリカが対抗策として彼らのミサイル早期警戒システムを破壊することがあるということを考えていないことだ。ひとつの起こりえる可能性としては、アメリカは、中国からの唐突な攻撃を受けると判断して、中国の戦略ミサイル軍にたいして攻撃をしかけることだ。もうひとつの起こりえる、そして同様に拡大気配のあるアメリカの反応としては、とくにそれらが地上レーザーや直接打ち上げによる場合には、中国の攻撃源を空爆することだ。

こうして、たとえアメリカのそのような対抗策が通常兵器によるものであったとしても、人民解放軍はアメリカによる中国本土の攻撃を導くことになる、より深刻な危機を引き起こしたのだということを理解するであろう。この4人の著者は、彼らの行った研究がいったいどのような悪影響をもたらすのかということについて熟慮したようには見受けられない。

 

宇宙抑止力

 

 蔡風珍のような宇宙戦力の理論家は、宇宙の一定領域を一定の期間支配する能力をもつべきであると提言する。黄志成は、米空軍宇宙軍マニュアルで宇宙戦争と妨害装置について論じている AFM 2-2.1に対応して、アメリカの「宇宙優位」に対抗するために、「宇宙抑止力」の体制をとるべきであるとの考えを発展させている。88 黄にとっては、「宇宙抑止力」への移行は、米国の宇宙理論の動向を反映したものである。89 黄はこれを「強力な宇宙戦力を使用することによって、敵国の宇宙戦力にとって脅威を創出あるいは示威し、実際上その敵国を抑止すること」と定義する。90 この抑止がめざすのは、中国の国家警戒システムを向上させるために、兵器システム、情報収集、指揮管制の分野で人民解放軍の戦力を向上し、敵の恐怖心をあおり、敵戦力を弱体させることである。91

 黄によれば、抑止のレベルにまで到達するためには、「敵の経済力と宇宙での機動力を叩き潰す」ことができるように、自国の経済、軍事、科学技術力向上に専心することである。92 2006年12月に中国がレーザーによってアメリカの衛星を目潰ししたことと、2007年1月11日に人民解放軍が自前の直接打上機によって中国の気象衛星を破壊したことの背後にある意図は、「宇宙抑止力」として理解すれば明瞭である。93 抑止力を信用させるためには、それを実行できる能力を示威しなければならない。黄の考えの中には、効果的な宇宙抑止力は、情報ネットワークやC4ISRシステムの機能を止めるための攻撃も含んでいるということを理解しておくことは重要である。

 この先さらに、アメリカやその他の国は、宇宙あるいは中国上空を自由に支配することができないと思い知ることになる「宇宙抑止力」の他の事例を見ることになるかもしれない。人民解放軍がさまざまな妨害のやり方を示威するのをみるかもしれない。そうすることによって、人民解放軍は、合成開口レーダー衛星を妨害するための運用試験を実施するであろう。中国の雑誌では、軌道上にある宇宙物体を操作して衝突を起こすことについてたくさん議論している。この手の操作は、宇宙物体同士の「事故」による衝突を引き起こすことになる。中国はそういうときに、事故には敵意はなかったというだろう。しかし、それでも中国は「宇宙抑止力」を持っているのだ。

 

結論

 

 中国と紛争が起きた場合には、軍事行動は戦争のすべての領域で行われると考えられる。陸、海、空、宇宙、そして電磁波帯域(つまり、情報戦争とサイバー戦争である)。宇宙におけるいかなる軍事行動も、敵の知識と指揮システムに対するより統合された攻撃の一部である。たとえ運用的あるいは戦術的に驚くべきことが起こるとしても、おそらく戦略的な警告がなされるであろう。それは、人民解放軍と中国中央軍事委員会が、「法律戦争」と彼らが呼んでいることを実行することで、彼らの行動を正当化するからだ。人民解放軍は、紛争地域に限定して「宇宙支配」を実施しようとするであろう。そしておそらく、国際的に受け入れられている宇宙の「共有地」としての定義(カルマン境界より上)を、平時と緊張期は遵守するであろう。しかしながら、もし紛争が勃発すれば、宇宙支配の高度上限は取り払われ、敵の軍事データや信号を運んでいるいかなるシステムも、人民解放軍のかっこうの標的となるであろう。中国外務省、情報機関、共産党連絡部、人民解放軍は、「法律戦争」の考え方に沿って、核実験や宇宙兵器に関する米国内の政治対立を利用するであろう。

 アメリカの海軍長官ドナルド・ウィンターは、8月にオーストラリアを訪問したときに、アメリカは、「中国の軍事近代化の真意を理解したい」といった。94 中国がどうやって宇宙での軍事行動をとるのかについての関心は、とくにその意図についてである。中国の活動と政策的立場からでは、北京政府の意図を解釈できないのだ。それらの中でも、とくに:

 

* 中国の拡大主義的領土要求、およびそれらを補強するために定期的にとられる軍事力行使 95

* この論文で書いたように、領土的な主張を宇宙にまで延長することの正当化

* 宇宙からの領土偵察を防ぐことを正当化するための法的論議をともなう「宇宙戦場」の形成。

 

 アメリカは、ソ連との間にとった孤立主義・対立主義のアプローチとはまるで違った対応を中国との間にとろうとしている。アメリカは、貿易、経済、政治の各分野で中国と深い関係にある。それでもなお、両国は相手と紛争になる可能性を警戒しているほか、国益というものについても基本的なところで考え方の違いをもっている。

 一方が軍備管理の主導者であるかないかという問題はあったが、アメリカとソ連の間の軍備管理と条約にともなう対話は、今日にまで続く相互理解の基盤をつくった。両国とも、主権の上限を定義することは、かえって不安定要因を生むということに気づいていた。それで両国ともに、相手の上空宇宙を自由に通過することに関して妨害されなかった。また、両国は、お互いの上空の宇宙を、自由に航行する被害を阻害されたことがない。両国ともに、宇宙からの戦略的検証を行う能力をもつことによって、核のバランスは安定するということに合意していた。

 中国との間ではそのような対話はまだ取られていない。実際、中国はそのような対話をしようとアメリカが努力しても、無視するか、拒否するだけであった。しばしば中国軍の高級将校や共産党の古参幹部はアメリカ人に対して、そのような対話に関与するのは、「冷戦思考」の一例であるという。96 私は、これらの問題について議論をすることは、アメリカの宇宙政策の理由づけを明らかにすることになるし、宇宙戦争の脅威を削減することにつながると信じている。

 我々は中国の意図をはかりかねているが、北京政府のとっている行動から推察することはできる。レーザーでアメリカの衛星を攻撃したり、自前の気象衛星を破壊したことは、能力の示威であった。また、北京の意図は、軍事的文献を熟読吟味することによっても推察できる。中国が獲得しつつある戦闘能力を観察し、その文献を読むと、中国の指導者たちはあたかもアメリカと戦争をしなければならないから準備をしているように受け取ってしまう。さらに、人民解放軍は、その基本政策で求められているように、法的議論によってせっせと「宇宙戦場」を準備している。

したがって、相互の脅威削減方策に関与していくためと、将来のいかなる紛争においても、アメリカ軍が宇宙および宇宙に設置された兵站支援にアクセスすることができるようなプログラムを遂行するために、宇宙におけるアメリカの利益を保護するための準備を進めるのが妥当であると考えられる。

(出典)http://www.aei.org/

http://chinadigitaltimes.net/2007/10/the_chinese_peoples_liberation_army_and_space_warfare_l.php

       原注(訳文中の1-96)は、上記urlを参照。

文中の中国名は当て字であり、正字かどうかの確認は一切行っていない。