宇宙政策シンクタンク「宙の会」は、宇宙政策について調査、議論し、提言することを目的にしています。多くの欧米のシンクタンクに見られるように、下請的調査ではなくて、中立、公平な立場での政策提言をめざします。そのスローガンは「静かな抑止力」。宇宙活動を世界標準並みに、科学技術力、将来産業力、環境・災害監視力、国際協力と外交力、という国の総合的ソフトパワーに活用すべきとの考えです。

韓国の宇宙開発

韓国漢陽大学 国家宇宙開発戦略研究センター 研究員

韓垠娥(ハンウンア)

1.序論

 韓国の宇宙開発は、国家経済規模の発展にともない、非常に積極的な国家政策を推進している。そしてロシアとの宇宙協力を通じて、韓国初の宇宙飛行士である李素?(イ・ソヨン)さんを国際宇宙ステーション(ISS)に滞在させることで韓国人による宇宙飛行の経験を積むことが可能となり、国民の宇宙に対する関心を深めるきっかけとなった。

 韓国初のロケット (KSLV-1) 打ち上げは、100kg級人工衛星を地球低軌道への投入を目的としたもので、ロシアとの技術協約を通じて行われた。KSLV-1(Korea Space Launch Vehicle-I)の開発事業は2002年に着手され、科学技術衛星2号(STSAT-2)を地球低軌道へ運ぶものである。液体エンジンの第1段とキックモータの第2段で構成された2段式ロケットで、第1段はロシアが開発し、第2段は国内技術で開発された。第1回の打ち上げは2009年8月25日、第2回はその一年後である2010年6月10日に行われたが、二回とも失敗に終わった。

2.宇宙開発振興総合計画

 韓国は1996年 に「宇宙開発中長期基本計画」を樹立し、2015年まで継続する長期発展計画を策定した。この計画には、2010年までには衛星打ち上げロケットを開発、2015年までに計19基の衛星を打ち上げるという内容が含まれていた。しかし1998年には、ロケットの開発を2005年に繰り上げ、宇宙センターを建設するなどの内容が含まれた1次修正が加えられ、2005年には2010年まで計13基の人工衛星を開発、ロケット開発の日程を延期するという3次修正案が発表された。また、同じく宇宙開発振興法も制定された。ここで制定された法律により、2007年「宇宙開発振興総合計画」が樹立された。

 韓国の宇宙開発現況は、大きく2つに分けられる。第一は衛星である。1996年に制定された「宇宙開発中長期基本計画」により、6基の衛星(多目的実用衛星1号・2号、ウリ星衛星1号・2号・3号、科学技術衛星1号)が打ち上げに成功し、運用されている。また2007年7月から、6基の衛星(多目的実用衛星3号・3A号・5号、通信海洋気象衛星、科学技術衛星2号・3号)を開発しており、そのうちの通信海洋気象衛星は昨年2010年6月27日、打ち上げに成功した。

 宇宙開発現況の第2はロケットであるが、これは科学ロケットおよび宇宙ロケット開発を通じてロケットの設計および製作能力確保と推進、地上施設構築、ロケット分野専門の人材育成、産・学共同研究体制を構築している。主な内容としては、固体推進体を使用する単段式科学ロケット(KSR-I,1993年)、2段式中型科学ロケット(KSR-II、1998年)を開発し、打ち上げた。2002年には液体推進剤を使用する科学ロケットKSR-IIIの設計および研究・開発し、打ち上げている。

 宇宙開発振興総合計画の主な推進方向の中で、技術的な側面をみると、宇宙技術開発の自立化のために、事業中心から一番重要な技術確保に重点を置いて推進している。宇宙開発事業を通じて確保された技術をもとに技術の自立化ができるよう、衛星とロケットの推進日程および戦略を再調整した。大学の基礎技術研究支援を拡大し、源泉基礎研究能力を培養する予定である。

 さらに宇宙開発事業の振興施策がより強化され、ロケット技術の自立を目指している。小型衛星ロケット(KSLV-I)開発は国際協力と国内開発を並行して、ロケットの核心技術の確保に重点を置き、推進している。国際協力を通じてシステム設計・総合技術、打ち上げ運用の技術などの技術確保や、持続的な研究開発を通じて政策・実験・評価技術を確保し、液体ロケットエンジンおよび大型構造物の自立基盤を確保しようとしている。KSLV-Iの後続事業は、KSLV-Iおよび先行研究によって習得された技術を利用し、韓国型ロケット開発という目標を立てている。そして、ロケットの核心技術である高推力液体エンジンの国内独自開発能力の確保に重点を置き、推進している状況である。宇宙センターの拡張はロケット開発事業と連携して行なわれ、地上燃焼実験・打ち上げ実験と国家宇宙開発についての国内向け広報、そして教育の場として活用する予定である。

3.韓・露宇宙協力

 宇宙分野に対するロシアとの協力は他国より遅れて着手されたが、宇宙技術協力の規模と範囲においてはむしろ他国に先行しており、重要な協力国家である。特に宇宙ロケット開発において、ロシアは韓国の非常に重要なパートナーである。

 国家宇宙開発中長期基本計画により韓国の高興(GOHEUNG)で100kg級衛星を打ち上げる小型衛星ロケット(KSLV-I)開発を推進しており、政府は宇宙ロケット開発を独自的に行なうことには時間的、技術的な難しさがあるとして、ロシアとの国際協力を通じて開発を推進することを決定した。
しかし、宇宙ロケットの開発には常に国際的な規制が存在し、これを克服するための国際協力の法的根拠を確保するため、両国は2003年韓・露宇宙技術協力協定協商を通じて2004年9月に、合議案に署名した。韓・露宇宙技術協力協商は韓国が推進した初の協定で、宇宙の探査および平和的な利用に関する韓・露両国間協力増進を目的としている。
ただし、たとえ韓・露宇宙技術協力協商が締結されたとしても、戦略的な面で敏感である宇宙ロケットに関する技術および品目の国内搬入のための戦略技術、品目の拡散防止を政府で保障し、同物品、技術の保護および取り扱いの手続きを規定するのは、必須な要素である。そのため戦略的に敏感な品目および技術拡散防止を政府間で保証する技術保護協定(TSA、Technology Safeguard Agreement)と具体的事業適用のための附属議定書(Protocol)に対する文案協定が2005年9月に始まり、2006年4月に基本文案を協議し、10月のロシア総理の訪韓時に協定に署名された。
韓・露宇宙技術協力協定が宇宙技術協力の全範囲に当てはめられると、技術保護協定はMTCR(Missile Technology Control Regime)品目に当たる戦略的「保護品目」に対する保護および取り扱い手続きを規定し、また議定書は特定事業(KSLV-I)のうち、「保護品目」に限って適用され、事業終了と共に廃棄されることになる。

 宇宙開発は、世界の安全保障のための各種安保協力機構に積極的に加入、または協力することにより、促進するきっかけが用意される。代表的な事例として、MTCR加入を通じたKSLV-I打ち上げにともなう韓国のロケット技術の発展が上げられる。ミサイル技術統制体制(MTCR)とは、大量殺傷兵器の運搬手段であるロケットや無人飛行体(UAV: Unmanned Aerial Vehicle)と関連部品・技術の拡散を規制するため、1987年4月に米国の主導で西側諸国7カ国が樹立した輸出統制体制である。 MTCR会員国は加入を通じて宇宙産業へ本格的に進出する足場を作ることができた。特に、国際的ミサイルの非拡散体制に積極的に参加する意志を国際社会へ知らせることによって国家信頼度を高める一方で、自国の防衛に必要な水準のミサイルプログラムを透明に推進できるという利点がある。韓国が、軍事同盟国である米国ではなく、ロシアと宇宙協力を行なうのは非常に異例なことである。

 2001年は、韓国がミサイルと宇宙開発分野において、先進国としてジャンプするチャンスが与えられた時期だった。1979年、自主的なミサイル開発の必要性を認識した韓国は、関連技術の移転確保のために射程距離180km以上のミサイルの開発をしないという「自律規制制限」を発表した。それから10年あまりが過ぎた1990年の初頭、北朝鮮のミサイル開発能力の伸張が安保上の脅威としてあらわれ、相対的に減少した韓国のミサイル開発能力を強化するため米国の自律規制から抜け出すべきだという要求が台頭した。
こうした背景から、対北ミサイル能力の非均衡解消のため180kmの制限を解かなければならないという会談の必要性を提起し、5年間に9回の公式会談が行われ、射距離300kmと搭載重量500kgまでのミサイル開発・生産・配置が可能になった。次いで韓国は2001年3月に、MTCRに加入することによって大量殺傷兵器の運搬手段であるミサイルの国際的非拡散に努力するだけではなく、国内的には宇宙開発に拍車をかけることができる足場を設けた。

 これ以降、ロケットの技術発展が非常に高まり、2002年11月韓国国内初の液体ロケットエンジンを使用する科学ロケット3号(KSR-III)を開発、打ち上げに成功し、衛星ロケットに活用できる基盤技術と一部の経験を蓄積することができた。これをもとにKSLV-Iの上段(第2段+ノーズフェアリング)を国内で自主開発した。


現在、韓国がロシアと宇宙協力を行なっているのは、ひょっとしたらおかしなことかもしれない。なぜならば、米国は韓国の軍事同盟国であり、日本に協力したように韓国に対しても協力してくれるはずである。にもかかわらず、冷戦体制下であれば敵対国と変わらないロシアと宇宙開発を行なっているのだ。しかし米国のNASAは、宇宙協力において、NO Money, NO Technology Transferという明確な原則を示している。そのため、米国から宇宙協力をとりつけるのは、非常に難しい。米国から宇宙協力を得た日本は、国内での研究開発も優秀であったが、同時に宇宙協力の外交面でも成功した国である。

当初、ロシアとの宇宙協力では、韓国とロシアが共同で開発したKSLV-Iの第一段推進体の製造技術を移転するようになっていた。しかし実際には技術移転は行われず、その代わりに宇宙センターの建設に関する協力は積極的に進められ、韓国の宇宙センターの建設技術を蓄えた。
これまで韓国は、 高興(GOHEUNG)ナロ宇宙センターで2009年8月25日に第1回目の打ち上げを行ったが、フェアリングの片方の分離失敗。その一年後の2010年6月10日、第2回目の打ち上げでも失敗した。両国間の調査委員会では、問題となった部分をテストした後、データを検証することになっている。これらの問題が解明したうえで、KSLV-Iは来年中には、第3回目の打ち上げを行う予定である。

4.KSLV-I 打ち上げ 第1回、第2回

 KSLV-Iは2009年8月25日、韓国の全羅南道にある高興郡外羅老島に位置するナロ宇宙センターから、科学技術衛星2号を搭載して打ち上げられた。正常に離陸・上昇したロケットは、第1段の推進飛行を順調に続けていたが、フェアリング分離の際に片方だけ分離、他方はできない問題が発生した。その後、第1段、第2段とも分離、第2段キックモーター燃焼、次いで衛星分離と、飛行シーケンスに併せて遂行された。しかしフェアリングの一方の分離が遅れたことから、正常な速度を得られず、衛星を軌道に投入できなかった。軌道投入の速度を得られなかった上段と衛星は、大気圏に突入し、消滅してしまったと推定される。

 -----KSLV-I の1次打ち上げ結果-----

 * 離陸後216秒にフェアリング分離の時、一方のフェアリングは正常的に分離されたが、他方は未分離のまま。
 * 離陸後395秒にキックモーターに点火。キックモーターは燃焼したが、上段にあった未分離のフェアリングのために姿勢制御不可能な状況発生。
 * 離陸後540秒の衛星分離後、540.8秒に残るフェアリングが分離。
 *搭載衛星は軌道進入のための速度(8km/s)より遅い6.2km/sの速度で分離、衛星は軌道に乗せられず、地球へ落下。


その後、2回目の打ち上げは2010年6月10日に行われたが、爆発。一昨年8月につづいて失敗した。午後5時1分に打ち上げられたKSLV-1は高度70km、打ち上げから137秒の時点で爆発し、濟州道の南の方に落下。
原因究明はまだ完全にはなされていないが、5つのシナリオをあげて総合的に技術検討を進めている。

-----2次打ち上げの5つの失敗シナリオ-----

 *1段制御システムの誤作動
 *1段推進機関システムの誤作動
 *過荷重による構造的破壊段分離装置の誤作動
 *酸化剤循環システムの誤作動
 *飛行中断システムの誤作動

 しかし、2回にわたるKSLV-Iは、韓国の宇宙開発のロードマップの一つである。ロケットは宇宙輸送手段として宇宙開発の中で重要な部分を占めているが、ロケット事業がすなわち宇宙開発事業の全般ではない。ロケット開発と打ち上げの示度は、宇宙先進国へ進む一つの過程である。KSLV-I事業は、打ち上げが成功したか否かにかかわらず、運営経験を積み、技術を習得することに重要な意味がある。また、ナロ宇宙センターの発射台設計の経験と打ち上げ全般の運用-テスト過程で得た経験と技術蓄積は、今後の韓国型ロケットの捨て石になるだろう。
 

 宇宙先進国の宇宙開発史を見てみると、成功までは多くの時間がかかるし、危機要因も存在する。宇宙開発事業の特殊性に対する国民的な理解が必要であるし、宇宙開発の必要性に関する確固たる意思も必要である。
また、KSLV-Iの打ち上げは、最終の目的ではない。KSLV-Iの打ち上げは、今後純国産技術を通じて2018年まで開発する韓国型ロケット(KSLV-2)の、完全な技術自立に向けた、事前の「打ち上げテスト:Flight Test」の意味を持っている。KSLV-Iの第1回目の打ち上げは、テストとしての性格を持ち、もし成功していたとしても第2回目の打ち上げは予定通り行われる計画であった。また、KSLV-Iの打ち上げ以後には、成功か否かにかかわず、韓国型ロケット開発のために全力を注ぎ、今後10年以内に独自でわが国のロケットを開発し、完全な技術自立を遂げる計画をとなっている。

5.結論

 宇宙開発は断じて容易な国際事業ではない。先端技術の集合体という宇宙開発は天文学的な予算とともに国家の力量が集中されなければならないため、相当な国力を持たない国家には着手がむずかしい事業である。米国とロシアをはじめ、フランス、日本、中国に次いでインド、韓国などの国家も宇宙競争に参入している。

宇宙開発は、宇宙そのものの開発と探査という目的もあるが、宇宙から地球をみながら資源を探査し、自然災害を予防、監視する側面でも非常に重要である。現代社会では気象情報がなければ一日も生きていくのが難しい状況になっており、カーナビゲーションなど、現代文明の維持において宇宙情報は必要不可欠な要素となっている。国家の安全保障の側面からも非常に重要であり、相手国内でのミサイル発射の準備や兵力の移動など、全てが宇宙に浮かんでいる人工衛星によって把握され、予防的な安全保障措置をとることができることも宇宙情報の価値である。

 米国やロシア、ヨーロッパなどの先進国より遅れて始まった日本は、米国から宇宙協力を受けることになったが、その背景を見ると国際政治の力学的構図下で移行されたものだと評価できる。中国のミサイル開発と核実験によって刺激され、自国の防衛という観点から宇宙開発を目指している日本に対し、米国は宇宙協力を決定することになった。これは日本を通じて中国を牽制し、その一方で日本を非軍事的な範囲内で宇宙開発を進めるように、一つに縛っておくという二匹のウサギを捕ろうとする戦略が内在していた。日本も米国の要求にこたえ、「宇宙の平和利用原則」という衆議院宣言をすることにより宇宙協力のきっかけを得たし、宇宙先進国としての基礎を固めた。
韓国も、日本と同様に国会レベルで「宇宙の平和利用原則」のような決議案を採択することによって、国際協力を円滑に受けられるのではないかと期待している。