宇宙政策シンクタンク「宙の会」は、宇宙政策について調査、議論し、提言することを目的にしています。多くの欧米のシンクタンクに見られるように、下請的調査ではなくて、中立、公平な立場での政策提言をめざします。そのスローガンは「静かな抑止力」。宇宙活動を世界標準並みに、科学技術力、将来産業力、環境・災害監視力、国際協力と外交力、という国の総合的ソフトパワーに活用すべきとの考えです。

有人宇宙システムの構築に向けて

(1)宇宙船概要

--有人宇宙論壇シリーズ--

JAXA 有人宇宙環境利用ミッション本部 HTVプロジェクトチーム 主任開発員

今田 高峰

今年は日本の宇宙開発におけるエポックメーキングな事が多く起こりました。「きぼう」の完成、若田宇宙飛行士の長期滞在、H-IIBロケットの初号機打上げもありますが、HTVミッションの成功を一番の出来事に挙げることに疑問を持つ人はいないはずです。ISSからリアルタイムで送られてくる印象的な映像を見ながら、日本でも独自の有人宇宙船を持てる可能性を実感した人は多いと思います。

 

 

接近するHTV(宇宙ステーション乗員撮影)   (C) NASA

 

ご存知の通り、現時点では国として独自の有人宇宙船を開発するか否かの結論が出ていません。他国は積極的に有人宇宙船の開発に進もうとする傾向にあり、華々しいプランを発表している中で、日本だけが躊躇している状況は残念なのですが、とにかく、やる、やらないの議論を行うためには、ある程度定量的な検討結果を材料として準備する必要があります。

私は、その一助となるべく、3〜4年ほど前からHTVの技術を元にした有人宇宙船の開発の可能性について検討してきました。有人宇宙船は宇宙開発の技術者にとっては非常に魅力的な目標で、国内でまだ検討されていない部分も多く、非常に研究のし甲斐のある分野です。私の検討結果はいくつかに分けて「宇宙技術および科学のシンポジウム(ISTS)」や「宇宙科学技術連合講演」などの学会で構想を発表してきました。今回、宙の会でレポートする機会を与えていただきましたので、今後5回に分けて、検討結果の概要をまとめてレポートしたいと思います。

私の検討では、現在の日本が宇宙開発に掛けられるリソースで可能な範囲の有人宇宙船がどのようなものになるのかを、極力定量的に示すことが目的です。順序としては、ターゲットとするミッション、乗員数及び機体の構成を策定し、その後、HTVでの実績などを適用して機体規模の推定を行いました。並行して、有人打ち上げに伴う課題について、H-IIBロケットのデータなどを使いながら具体的に検討しています。

 

(1)   ターゲットミッション

今年完成したH-IIBは我が国最新・最大のロケットであり、一連の検討における軌道打上げ可能な重量(軌道運搬可能リソース)の指針となるものです。新型ロケットに関する検討も進められていますが、ここ10年程度でH-IIBの数倍の打上げ能力を持つロケット(それこそサターン5型のようなロケット)を、全く新規に開発することは考えにくい状況にあります。

有人宇宙船ミッションとしては、HTVのような地球低軌道ミッションと、アポロのような月ミッションが考えられますが、下表に示す通り、低軌道ミッションと月ミッションでは、サービスモジュールに搭載しなければならない推進薬量が桁違いであり、ロケットに対する軌道打ち上げ要求の規模が全く異なります。

分割して打ち上げ、軌道上で結合させる案も考えられなくはありませんが、HTVの経験からランデブ・ドッキングには少なくないリソース(重量、電力、コスト、運用、検証)を必要とすることが判っており、分割打上げ&ドッキング案は気楽に設定できるオプションではありません。

 

 

各ミッションで必要とされる増速量規模と既存技術(打ち上げリソース)での実現性

 

結果として私の検討では、現在の日本で考え得る最も現実的で効果的なものとして、低軌道目標(宇宙ステーション等)との有人往還ミッションを選択しました。低軌道に限定しても、宇宙ステーションとの往復だけでなく、シャトルで行っていたような軌道上実験、宇宙望遠鏡などの衛星のメンテナンスも考えられます。特に今後ロシアの新型宇宙船やヨーロッパのATV発展型宇宙船、インドの有人宇宙船などが新たに進宙した暁には、他国の宇宙船との相互協力ミッションも、国際協調をアピールするものとして、今以上に活発化するでしょう。

 

 

国際協調ミッションの想像図

 

(2)   搭乗人数

最初に有人宇宙船の基本要求を設定する必要があります。有人宇宙船に最大搭乗可能な人数は、搭載する帰還モジュール(再突入カプセル)寸法によって決まります。H-IIBとHTVの組み合わせで得られる打上げ制約から、最大直径4.0m程度を確保できると考えました。もっと大きなサイズも試算したのですが、宇宙船の総合規模が大きくなりすぎます。現在のH-IIBの打上げ能力からはこの程度がちょうど良いようです。

機体の重量を推定するには、機器重量の積み上げで行う方法と、類似した機体から推測する方法の2つがありますが、有人の帰還モジュールの設計は日本では実績がないため、積み上げ方式では誤差が大きくなります。従って、後者の方法で推定しました。参考としたのは下の3機です。

 

・       ソユーズ:2.9トン/3名、直径2.2m

・       アポロ指令船:5.8トン/3名、直径3.9m

・       オライオン:8.9〜9.7トン/6名、直径5.0m

 

各国のカプセル型の再突入モジュールに搭乗可能な人数は、ミッション要求によって異なりますが、軌道上居住モジュールを別途備える宇宙船であれば、滞在のための機器(食料、トイレなど)を帰還モジュールに備える必要はなく、ソユーズの再突入カプセルのように機能を再突入だけに絞ったものとすることができるので、最大直径4m、重量5トン程度の帰還モジュールであれば、最大搭乗人数として4名は搭乗可能と思われます。

 

帰還モジュール透視図(4名乗員/直径4mの場合)

 

(3)   機体構成

有人宇宙船では乗員が帰還するための「帰還モジュール」、軌道上で生活するための「居住モジュール」、軌道変換などを行う「サービスモジュール」、緊急時に安全に離脱するための「アボートシステム」を組み合わせる事になり、さまざまな組み合わせ方が考えられます。機体構成を検討するに当たって留意した項目は以下の通りですが、他にも色々な考え方、優先度を取ることができ、その都度、最適解も異なったものとなる可能性も大いにあります。このトレードオフが有人の宇宙船検討の特徴でもあり、醍醐味でもあります。

 

[HTVの技術を利用した手堅い開発]

HTVの機体構成は、与圧/非与圧の2つのキャリアシステムと、電気モジュール、推進モジュールが専用モジュール化されていることに特徴があります。有人化に当たっても電気/推進モジュールは現在のHTVから大きな変更は必要なく、そのままの形状でサービスモジュールとして使えるでしょう。一方、与圧/非与圧キャリアシステムは軌道上居住モジュール/帰還モジュールに入れ替えられるため、それらを独立したモジュール構成として、電気/推進モジュールと連結させる構造としています。

 

[乗員に優しいシステムを目指す]

ソユーズを代表とするこれまでのカプセル型の帰還モジュールは、制御システムに異常があった場合に揚力制御をキャンセルして、弾道に近い飛行経路を飛ばすことで安全を図っていますが、その場合、10G程度の非常に大きな重力加速度が乗員に掛かってしまうことになります。一方、シャトルでは翼の舵面制御やスラスタ制御に冗長性を有し、異常時にもバックアップ系統に切り替えることで制御を維持して目的の滑走路へ誘導するようにしており、同時に乗員にかかる重力加速度を常に緩和して飛行します。

次世代型の再突入カプセルとして、従来のカプセル型の手堅い設計に、シャトルにおける制御の冗長性の考えを取り入れ、緊急時にもソユーズのような弾道モードを必要としない、乗員に優しいシステムを目指すべき、と考えます。また、異常時にも制御機能を確保することで、海上回収に必要なリソースも縮小することもできます。これについては次回以降で詳しくレポートします。

 

 

次世代型再突入カプセルと従来型カプセルの違い

 

[将来への発展性も考慮する]

代表的な有人宇宙船の構成の例として、アポロ形式とソユーズ形式を下図に示します。

 

 

有人宇宙船の構成(ソユーズ型とアポロ型)

 

ソユーズ型のように軌道上居住モジュールを帰還カプセルの上に持ってくる案については、機体構成がシンプルになる反面、アボートシステムによって分離・離脱させるトータル重量が増すことが問題です。アボートシステムは我が国で開発した経験がなく、米国でも重量超過が課題になっている難しいシステムなので、極力負担を減らしたい所です。また、アボートシステムの推力は宇宙船の形態に最適化する必要があり、ソユーズ型では、一旦設計を固めてしまうと、将来軌道上居住モジュールを拡大する等の発展性がなくなります。加えて、アボートシステムによる10G程度の重力加速度や、アボート時の大きな音響環境に軌道上居住モジュールが耐える必要も生じるため、構造強度も余計に必要となってしまうこともソユーズ型のデメリットとなります。

他方、オライオンでは軌道上居住モジュールを持たず、再突入カプセルにその機能を統合しています。連結などがなく一見技術リスクが小さいように見えますが、再突入カプセルに開発リスクが集中し、開発途上で重量超過などが起きた場合、他のモジュールとの調整で吸収することができなくなります。また、発展性に乏しいことが大きな欠点です。最近のオライオンの利用方法として、同機を2機連結した拡張ミッションが提案されていますが、単体では発展性に乏しいことの裏返しと見ることができるかもしれません。

 

 

 

各モジュールの結合レイアウト3案

 

そこで、将来、打ち上げロケット能力の向上と歩調を合わせ、長期軌道上滞在などへの発展も考え、一番右側のコンフィギュレーションを選びました。この案はアポロ相似のモジュール組み合わせ順序ですが、ドッキング機構の代りにHTV曝露パレット機構を元にした軌道上転回機構によって方向を変えて、再結合する形態となっている事に特徴があります。

この形態では技術リスクとして軌道上転回機構の実現がありますが、HTVでの曝露パレットの機構をベースとして、開発が可能と考えており、次回で詳しくご報告します。一方、他の案よりも、アボートシステムの開発リスクを小さくできること、また、帰還モジュールに搭載しなければならない機能も最小化できるため、総合した技術リスクの最小化にもなる形態ではないかと思います。

また、この「エスケープシステム−帰還モジュール−サービスモジュール−軌道上居住モジュール」に分割した設計は、段階的な開発を実施する上でも有利に働きます。すなわち、サービスモジュール自体は現HTVの電気/推進モジュールの設計を踏襲でき、短期間で開発が可能であるため、開発の早期の段階で実現可能です。それに無人の帰還モジュール、エスケープシステムのみを段階的に組み合わせることにより、徐々に必要な技術を実証していくシナリオを描くことができます。

一方、軌道上居住モジュールは本格的な有人ミッションをターゲットにして開発を進めればよいため、開発の最終段階に間に合えばよく、上記のような帰還モジュール/エスケープシステムの飛行実証とは並行して開発を進めることが可能となります。この辺の各開発要素の整合を取った開発についても後のレポートでご説明します。

 

  

 

軌道上で転回中の想像図

 

(4)   運用形態

転回機構を採用することによって、アボート運用を代表として、様々なメリットがあるのですが、運用は若干複雑となります。最後に運用を3段階(打上げ〜宇宙船分離、軌道上での居住モジュール使用開始、軌道離脱)に分けて図で示します。

有人機として特に考慮しなければいけないことは、常に異常時に対応できる方法を残しておくことで、本案ではHTVで開発した「スライドレール+ローラーによる曝露パレット挿入機構」、「曝露パレットの分離・再固定機構」と、JEMで開発したロボットアームのジョイント機構を組み合わせることで、帰還モジュールの分離に対して冗長性を持たせています。

 

次回は有人宇宙船の各モジュールに必要とされる技術要素とHTVとの関連についてレポートします。

 

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credit:JAXA NASA