宇宙政策シンクタンク「宙の会」は、宇宙政策について調査、議論し、提言することを目的にしています。多くの欧米のシンクタンクに見られるように、下請的調査ではなくて、中立、公平な立場での政策提言をめざします。そのスローガンは「静かな抑止力」。宇宙活動を世界標準並みに、科学技術力、将来産業力、環境・災害監視力、国際協力と外交力、という国の総合的ソフトパワーに活用すべきとの考えです。


宇宙開発戦略本部・専門調査会議論への素朴な疑問

--「災害」「防災」の冠をつけることが優先順位か --

白子悟朗

わが国宇宙開発利用の道筋を議論する宇宙開発戦略本部・専門調査会が、地域的測位衛星システム

(RNSS)と呼ばれる準天頂衛星システムの実現を最優先する、こと等を盛り込んだ”宇宙開発利用の戦略的推進のための施策の重点化及び効率化の方針について(案)”を公表し、7月末には本部に提言すると報道されています。

(注:RNSS:Regional Navigation Satellite System に対して、GPS他は全地球測位衛星システムGNSS:Global Navigation Satellite Systemとよばれます)

 さらに、早期警戒衛星開発の24年度予算要求も話題化し、わが国が抱えた東日本大震災からの復旧・復興等への供出金と膨大な赤字国債を抱える緊迫した財政に対し、「災害対策」や「防災」を冠にした不毛な順位付けが行われようと見てとれることは誠に残念な思いです。

 既に宙の会;論壇は、中野不二男さんから「はたしてこれでいいのだろうか宇宙開発戦略本部」のペーパー(7月4日付)で案文に対する疑問が呈されています。 共感する部分を含め、私は3つの素朴な疑問を提起させていただきたい。

 

1) なぜ、「だいち」が無く、「情報収集衛星;IGS」が見えない今、「ALOS3」が後回し?

 

私としては、本論壇に掲載していただきました”今こそ!IGSの姿を”シリーズで論じつくしましたが、東日本大震災被災地観測や、世界の災害に対する緊急観測・監視で貢献した「だいち」が4月22日をもって運用終了となったことに対する短期的な対応施策が必要な時期に、それを多く議論することなしに、「だいち」の光学後継機として位置づけられていた「ALOS3」の現計画を緊急性が低いと断じ、準天頂衛星システム構築を優先するがために、予算のめどがつけば復活するとの言葉上の表現はあるものの計画中止をも匂わせる表記となっていることは残念です。

 その論拠となっている官民共同開発の「ASNARO1」と海外衛星による画像提供があれば国の防災に十分との言は、国家の宇宙開発としての優先順位を挿げ替える意図的な方便といわざるをえません。 広域観測が可能な「ALOS3」を含む「ALOS」シリーズがあってこその「ASNARO1」の高分解能・狭域撮像が生かされるとの観点は重視されるべきと考えますが、緊急時に「ALOS3」の部分を海外衛星や画像購入等の他力に縋るということは、順序が逆ではないでしょうか。

一歩譲っての代案として、第一世代IGSの広域画像と「ASNARO1」の組み合わせが現実的に考えられますが、専門調査会等でも「IGS」が東日本大震災や過去の災害時にどのように活用されたのかの確認が形式的にやり取りはされているものの、内閣情報調査室が集約された情報に基づき”災害状況推定地図”を作成し、関係機関に配布していると公言しているマップすら、報道も含め国民は目にしていない/出来ていないとの状況では、IGSに災害対策や防災を期待することは無力感が先行します。

宇宙開発戦略本部・専門調査会並びに関連したワーキング(準天頂衛星開発利用検討、リモートセンシング政策検討)の議論経過を、当該ホームページに掲載された配布資料、議事要旨、案文で再読しましたが、宇宙基本法に明示されているとは言え、準天頂衛星開発利用ありきの議論で終始し、東日本大震災、並びに今後の大規模災害(地震、津波、豪雨水害、・・・地図作成などなど他多数)への防災・減災、さらには地球環境監視に対する国策として、その有用性や技術的可能性等の十分な議論もなしに、リモートセンシングに関る施策が現状より後退、ないし二の次にしなければならないのか、素朴な疑問を呈し、強く見直しを要望します。

 

2) なぜ「防災」を冠にしてまで、「IGS」に加え、「準天頂衛星」、「早期警戒衛星」までも?

 

 国家的な東日本大震災の復旧・復興や安全保障のための宇宙開発利用に異論を唱えるものではありませんが、なぜか「災害対策」、「防災」を冠にして具にするような今回の”宇宙開発利用の戦略的推進のための施策の重点化及び効率化の方針について(案)”には違和感を感じます。

一つは、準天頂衛星システムの実現を最優先するがために、技術的議論や社会的検証議論が多く見られないまま、唐突に”発災直後の安否確認・避難誘導・・・”が付け足されたことです。

東日本大震災発災直後における行政防災無線システムや既存通信事業の携帯電話・固定電話網途絶、通信制限等の混乱がありましたが、それを教訓に、特に通信事業者はシステムの改善や対策を早や採り始め、すでに災害耐性の向上に行動しています。

それに加え、現在の携帯電話や高機能携帯端末の多くにはGPS機能が付加されると共に”緊急情報位置通知”が既に可能になっています。 この現状で果たして準天頂衛星による測位・災害対応に置き換えること(受信機/チップ、ソフトウエアーなど)に、社会的にも、現存する携帯通信事業者とのコンセンサスが得られること。さらには安否確認等の付加が測位への影響の有無など、実証実験や社会実験などを通じて十二分に行うことが先決で、その目処なしに本格的な準天頂衛星システム構築を決めてかかるのは如何だろうか。

二つめも、このような重要な政策選択期に唐突にも、これも防災という冠言葉をつけた早期警戒衛星開発の24年度予算要求の話題には、きわめて疑問を感じます。

なお、IGSについても国家の災害や安全保障上の情報収集を行うことを目的としている建前から、未曾有の東日本大震災ですら、その姿を国民に見せることなくベールで隠していることに拘るならば、宇宙基本法に則りその位置づけを明確に仕分する国民レベルの議論をしたほうが賢明ではないでしょうか。

3) 戦略本部・専門調査会等には、国民・ユーザー目線の議論を期待

 

国家の宇宙開発利用の政策には財政的な面を考慮し、国民への還元(安全・安心)を配慮した順位付けは当然なことと理解しますが、わが国の23年度・宇宙関連年間予算・政府原案(宇宙戦略本部事務局資料による)は、防衛省関係(衛星通信、商用画像衛星利用、弾道ミサイル防衛(宇宙関連))の約400億円を含めると約3100億円、そのうちIGSが約670億円、宇宙ステーション関連が約350億円・・・以下略、このような中でトータル予算の上乗せがなければ、総事業費2300億円ともいわれる準天頂衛星システムを実現するには24年度以降直ちに相当額を捻出しなければならないはずですし、システム構築の暁には、その後の運用やメンテナンス、改善のための継続的な国民負担が生じます。

その結果、今回のように「ALOS3」の先送り/中断や、国として整備してきた防災・地球環境監視観測計画に継続的な計画性が損なわれ国際的な土俵から降り、後塵を拝することに疑問を呈します。

東日本大震災の復旧・復興、原発事故終息を含む、混迷する国政においては、宇宙政策の政治判断において、国民にとっての無駄やリスクが生じないようにする配慮が肝要です。

その上で、国の宇宙開発利用のインフラ構築・整備においてバランスの取れた、宇宙戦略議論を、国民/ユーザー目線で議論していただくことを期待したい。 そのためには宇宙開発利用を一国民としての「覚悟」をもって望んでいただき、東日本大震災復旧・復興が国家として最優先のこの数年は、現状の地球観測の早期再整備に徹し、新規計画には十分な事前検証、国民的な優先順位付けの同意を得ることを心がけていただきたいと願う次第です。

もう一つ加えれば、現実にはもっと謙虚になって、目新しく、大規模で高度な技術による対策のみに目が向くのではなく、多くの教訓を生かした身近で枯れた技術を使い込むことも大いにすべきではないでしょうか。

以上、私として、大きく括って3つの思いを疑問として呈しながら、わが国宇宙開発利用への更なる期待と応援を、し続けたいと思います。

 

参考;

1)宇宙戦略本部-HP

2)宙の会論壇-HP